特別支援の不思議な世界

高校教師だった私が特別支援学校勤務をきっかけに知ったこと考えたこと

境界知能と高校の現場

「境界知能」については、以前にも記したことがある(「知的障害と境界知能」「IQと境界知能」)。 「境界知能」とは、一般には知能指数(IQ)が「70以上85未満」の人をいう。IQの平均値は100であり、その1偏差値は15なので、平均値±15、すなわち「85以上11…

学習障害(LD)への対処法

学習障害(LD)を理解するためのメモである。高校現場での利用に資するため、岩波明『発達障害の子どもたちは世界をどう見ているのか』(SB新書:2023)によって、学習障害(LD)への対処法の概要をまとめておく。 実際には、学習障害(LD)は一人一人の様態…

学習障害(LD)と教科の授業

学習障害(LD)について理解するためのメモである。高校現場での利用に資するために、岩波明『発達障害の子どもたちは世界をどう見ているのか』(SB新書:2023)によって、学習障害(LD)の子どもたちが小学校の国語・算数の授業で抱える問題について、まとめ…

学習障害(LD)の「症状」

学習障害(LD)について理解するためのメモである。 岩波明『発達障害の子どもたちは世界をどう見ているのか』(SB新書:2023)によって、その「症状」をまとめておく。 [読字障害の症状] 〇文字が歪んで見えたり、重なって見えたりする。 〇似た文字を区別…

学習障害(LD)について

現在の高校の現場には、学習障害(LD)の診断のある生徒やそれと疑われる生徒が多く在籍している。学習障害(LD)について、岩波明『発達障害の子どもたちは世界をどうみているのか』(SB新書2023)によって概要をまとめておく。 学習障害は、Learning Disor…

発達特性へのアプローチと二次障害

本田秀夫『発達障害』(SB新書2018)は、発達障害へのアプローチの方法として「ボトムアップ」式と「トップダウン」式を挙げている。 「ボトムアップ」式とは発達を促進し能力を底上げしようとするアプローチであり、発達の特性があって苦手なところを少しで…

再び、「色の認識」に挑む

「色の認識」については、かつてうまくいかなかった経験がある(→こちら)。その時の反省として、私自身が色の分節化のしくみを考えていなかった、ということがある。赤・青・黄の三色のコーンを、「赤はどれ?」などといって選ばせようとしただけたった。こ…

「速く歩く/走る」を育てる

かつて私が担当した、動作の遅い生徒を、速く歩いたり走ったりできるようにしようとした取り組みについてである。彼は、高等部2年生で発語がなく排便が自立していなかった。 担当する前年、なかなか歩こうとしない彼をよく見かけた。歩いてもスピードが遅く…

「ひねる」を育てる

この高等部2年生の男子生徒は、対象物をつまむことができず、目と手の協応や視空間認知に弱さをもっていた。いつくかのトレーニングで、何とか対象物をつまんでプットインできるようになり(→こちら、→こちら)、目と手の協応や視空間認知にも完全には程遠…

「視空間認知」を育てる

高等部2年生の男子生徒を担当したときの話である。 「円盤積み木を棒に差すトレーニング」をやっていた時のことだ(→こちら)。やっと円盤を持って棒に差すことができるようになったのだが、同じ棒にばかり差そうとするのだ。その棒がいっぱいになり、他の…

「円盤積み木の棒差し」ができた!

高等部2年生の男子生徒を担当したときのことである。つまむという動作ができない生徒だった。また、手元をしっかり見て指先で作業をすることが困難な生徒だった。つまむという動作については、テーピングを使った取り組みで何とかできるようになってきた(→…

ある弱視の女子生徒のこと

普通高校に勤務していた頃のことだ。弱視の女子生徒がいた。ただの弱視ではなく、次第に視力が低下して最終的には目が見えなくなる可能性があるという病気/障害のある生徒だった。学校では、日々の経験から階段などでもつまづくことはなく、友達に支えられ…

「指先でつまむ」を育てる②

「指先でつまむ」を育てる①(→こちら)で、とりあえず「つまむ」ことができるようになった男子生徒について、このトレーニングをその後どのように展開していったらいいのかわからなかった。かつての教え子である作業療法士にも相談してみたが、ピンとこなか…

「指先でつまむ」を育てる①

自然人類学では,親指と他の4本の指が向かい合っていることを「拇指対向性」という。この性質は,同じく樹上生活によって獲得した直立二足歩行や平爪であることとともに,人類の進化に大きな影響を果たしたとされている。人類は,拇指対向性や平爪を有する…

A型事業所の現実

障害者の就労支援施設には,「就労移行支援事業所」「就労継続支援A型事業所」「就労継続支援B型事業所」の3つがあり,いわゆるA型事業所とは「就労継続支援A型事業所」のことだ。 A型事業所は,一般企業への就職が難しい障害者が職員の福祉サポートを受…

「自分でストレッチ」を育てる

知的障害と肢体不自由の生徒を担当したときのことである。ひどい拘縮のため、右手がほとんど使えない生徒だった。右手の拘縮は身体全体のバランスにも影響を及ぼし、歩行姿勢が安定しない生徒だった。 素人の浅知恵で、覚えたての動作法を用いて関節を伸ばし…

「色の認識」の失敗

うまくいかなかった例である。素人の浅知恵だった。 色の認識に課題のある生徒だった。前任の先生からの引継ぎがあり、障害が原因だろうとのことだった。一応、赤、青、黄で試してみた。間違えることも多いものの、意外と正解することも多かった。できるので…

障害者雇用代行ビジネス

障害者雇用に「法定雇用率」が果たしてきた役割は大きい。「法定雇用率」は、2020年現在、2.2%、企業は45.5人に1人の割合で障害者の雇用が義務付けられている。2021年には2.3%に引き上げられる予定である。「法定雇用率」をクリアしている企業には1人につき2…

特別支援教育のインセンティブ

特別支援学校に異動して違和感をもったことの1つが、先生方が必要以上に保護者に気を遣うことと、学校行事等を奇妙なほどに盛り上げようとすることだ。保護者の意向を尊重することは当然のことであり、子どもに障害があるのであればなおさらのことだが、子…

「特例子会社」制度

特例子会社制度とは、大企業グループ傘下のいずれかの会社が障害者を雇用する子会社を設立すれば、企業グループ全体としての障害者法定雇用率にカウントしてもよいという特例措置である。この制度により大企業を中心に障害者の雇用が劇的に増えたといわれる…

「大小の概念」を育てる

大小の概念を身に付けさせるのは難しい。そもそも、大きい小さいの意味がわからないのだから、ものを2つ並べて「どっちが大きい」と聞いてもダメなのだ。我々だって、大きいとはどういうことか、と聞かれれば答えに困ってしまうだろう。仮に答えられたとし…

「文で話す力」を育てる

ある生徒を、文で話せるようにしようと取り組んだときの話である。高等部の3年生で、二語文程度は話せる生徒だったが、語いは非常に少なく、文字も読めなかった。有効な方法がわからなかったので、素人の浅知恵で、絵カードを見ながら、私の話した文を繰り返…

「短期記憶」を育てる

「短期記憶」のことを考えたのは、ある生徒を文で話せるようにしようと取り組んだ時だ。二語文程度は何とか話せる生徒だったが、語いは少なく、文字も読めなかった。私が話した文を、後に続いて繰り返すトレーニングをしていたが、なかなかうまくはいかなか…

「目と手の協応」を育てる

特別支援学校に異動して最初に担当した生徒のひとりが、「目と手の協応」に課題がある生徒だった。私自身、「目と手の協応」などという言葉を知ったのはそれが初めてだった。前年までその生徒を担当した先生から一応の説明を受けたが、発語がなく、紙パンツ…

数の認識を育てる

私のように、高校から異動してきた、しかも文系の教師にとって、数の概念が育っていない生徒にそれを教えるのは難しい。本に書かれていることや、元小学校教諭で特別支援学級の経験もある妻からの助言を参考にして、いわば見よう見まねでやってみた。相手は…

進化論と発達障害

優生思想は、進化論をベースに、生物の遺伝構造を改良することで人類の進歩を促そうとする社会思想であると考えることができる。ところが、ここには一つの誤謬がある。進化論の創始者であるC・ダーウィンが唱えたのは「適者生存説」であり、必ずしも優位の種…

ルソーの差別的優生思想

ジャン・ジャック・ルソーの障害者(病弱者)に対する考えは有名である。それは明白な優生思想的差別であるが、今日的立場から断罪するのではなく、論理構成を検証することが重要であると考えられる。なぜなら、それは歴史的制約だけでなく、ルソーの思想そ…

ASDと統合失調症

自閉症スペクトラム障害(ASD)と統合失調症の類似性が指摘されている。ASDと統合失調症を見分けることは非常に難しく、ASDの概念が浸透していない過去の時代においては、ASDが統合失調症と誤診されたことも多かったらしい。また、ASDの2~3%の割合で、両者…

「社会モデル」の陥穽

人間がもっているはずの視力、聴力、臓器の働き、運動や知的能力などの基本的な機能について、一定の基準を満たさないとき、「障害者」として認定される。その判断をするのが医学的な知識を有する医師であることから、こうした障害の定義づけを「医学モデル…

奇妙な用語「合理的配慮」

最近はやりの、「合理的配慮」は奇妙な用語だ。言葉の意味をそのままとれば、配慮には合理的なものとそうでないものがあり、合理的な配慮をすべきだということになる。その場合、「合理的」とは、障害のある人たちにとって理にかなった、というニュアンスに…