特別支援の不思議な世界

高校教師だった私が特別支援学校勤務をきっかけに知ったこと考えたこと

知的障害と境界知能

境界知能と高校の現場

「境界知能」については、以前にも記したことがある(「知的障害と境界知能」「IQと境界知能」)。 「境界知能」とは、一般には知能指数(IQ)が「70以上85未満」の人をいう。IQの平均値は100であり、その1偏差値は15なので、平均値±15、すなわち「85以上11…

再び、「色の認識」に挑む

「色の認識」については、かつてうまくいかなかった経験がある(→こちら)。その時の反省として、私自身が色の分節化のしくみを考えていなかった、ということがある。赤・青・黄の三色のコーンを、「赤はどれ?」などといって選ばせようとしただけたった。こ…

「速く歩く/走る」を育てる

かつて私が担当した、動作の遅い生徒を、速く歩いたり走ったりできるようにしようとした取り組みについてである。彼は、高等部2年生で発語がなく排便が自立していなかった。 担当する前年、なかなか歩こうとしない彼をよく見かけた。歩いてもスピードが遅く…

「ひねる」を育てる

この高等部2年生の男子生徒は、対象物をつまむことができず、目と手の協応や視空間認知に弱さをもっていた。いつくかのトレーニングで、何とか対象物をつまんでプットインできるようになり(→こちら、→こちら)、目と手の協応や視空間認知にも完全には程遠…

「視空間認知」を育てる

高等部2年生の男子生徒を担当したときの話である。 「円盤積み木を棒に差すトレーニング」をやっていた時のことだ(→こちら)。やっと円盤を持って棒に差すことができるようになったのだが、同じ棒にばかり差そうとするのだ。その棒がいっぱいになり、他の…

「円盤積み木の棒差し」ができた!

高等部2年生の男子生徒を担当したときのことである。つまむという動作ができない生徒だった。また、手元をしっかり見て指先で作業をすることが困難な生徒だった。つまむという動作については、テーピングを使った取り組みで何とかできるようになってきた(→…

「指先でつまむ」を育てる②

「指先でつまむ」を育てる①(→こちら)で、とりあえず「つまむ」ことができるようになった男子生徒について、このトレーニングをその後どのように展開していったらいいのかわからなかった。かつての教え子である作業療法士にも相談してみたが、ピンとこなか…

「指先でつまむ」を育てる①

自然人類学では,親指と他の4本の指が向かい合っていることを「拇指対向性」という。この性質は,同じく樹上生活によって獲得した直立二足歩行や平爪であることとともに,人類の進化に大きな影響を果たしたとされている。人類は,拇指対向性や平爪を有する…

「自分でストレッチ」を育てる

知的障害と肢体不自由の生徒を担当したときのことである。ひどい拘縮のため、右手がほとんど使えない生徒だった。右手の拘縮は身体全体のバランスにも影響を及ぼし、歩行姿勢が安定しない生徒だった。 素人の浅知恵で、覚えたての動作法を用いて関節を伸ばし…

「色の認識」の失敗

うまくいかなかった例である。素人の浅知恵だった。 色の認識に課題のある生徒だった。前任の先生からの引継ぎがあり、障害が原因だろうとのことだった。一応、赤、青、黄で試してみた。間違えることも多いものの、意外と正解することも多かった。できるので…

「大小の概念」を育てる

大小の概念を身に付けさせるのは難しい。そもそも、大きい小さいの意味がわからないのだから、ものを2つ並べて「どっちが大きい」と聞いてもダメなのだ。我々だって、大きいとはどういうことか、と聞かれれば答えに困ってしまうだろう。仮に答えられたとし…

「文で話す力」を育てる

ある生徒を、文で話せるようにしようと取り組んだときの話である。高等部の3年生で、二語文程度は話せる生徒だったが、語いは非常に少なく、文字も読めなかった。有効な方法がわからなかったので、素人の浅知恵で、絵カードを見ながら、私の話した文を繰り返…

「短期記憶」を育てる

「短期記憶」のことを考えたのは、ある生徒を文で話せるようにしようと取り組んだ時だ。二語文程度は何とか話せる生徒だったが、語いは少なく、文字も読めなかった。私が話した文を、後に続いて繰り返すトレーニングをしていたが、なかなかうまくはいかなか…

「目と手の協応」を育てる

特別支援学校に異動して最初に担当した生徒のひとりが、「目と手の協応」に課題がある生徒だった。私自身、「目と手の協応」などという言葉を知ったのはそれが初めてだった。前年までその生徒を担当した先生から一応の説明を受けたが、発語がなく、紙パンツ…

数の認識を育てる

私のように、高校から異動してきた、しかも文系の教師にとって、数の概念が育っていない生徒にそれを教えるのは難しい。本に書かれていることや、元小学校教諭で特別支援学級の経験もある妻からの助言を参考にして、いわば見よう見まねでやってみた。相手は…

知的障害と境界知能

知的障害とは一般にIQ70未満をいうが、これは全世界的には人口の2.1%程度であることが知られている。ところが、その89%までがIQ50~69までの軽度の知的障害だという。IQ50とは成人に達したときの知的能力が、健常発達の9歳前後、すなわち小学4年生程度で…

IQと境界知能

ベストセラーとなった宮口幸治『ケーキの切れない非行少年たち』は、多くの衝撃的な事実を取り上げた本だったが、高校で生徒指導をやってきた私には首肯できる説明が多かった。高校は進学校や普通の高校ばかりではない。「底辺校」とか「教育困難校」とか呼…