この高等部2年生の男子生徒は、対象物をつまむことができず、目と手の協応や視空間認知に弱さをもっていた。いつくかのトレーニングで、何とか対象物をつまんでプットインできるようになり(→こちら、→こちら)、目と手の協応や視空間認知にも完全には程遠いものの一定の成長が見られた(→こちら、→こちら)。
対象物をつまむことができるようになった後、取り組ませたものの一つが「ひねる」ことだった。「ひねる」ことができるようになれば、瓶のふたを開けたり水道の蛇口を開け閉めしたりできる。いろいろなつまみを動かすこともできるかもしれない。生徒のQOLは向上するはずだ。そう考えて取り組んだのは、瓶のふたをあけるトレーニングである。
配慮したのは以下のことである。素人の浅知恵なので、あるいは間違っていることもあるかと思う。
・つかみやすいように、ふたの大きな瓶にした。
・力が加わりやすいように、滑り止めとしてふたにゴムを巻いた。
・モチベーションを高めるために、瓶の中にiPadのカードを入れ、ふたを開けることができたらiPadを貸すことにした(この生徒はiPadで音楽動画を視聴することが大好きだった)。
・瓶の中のカードが取りやすいように、新聞紙を入れて底上げしておいた。
・はじめは瓶のふたを少し緩めておいた。
結果的には、数週間で瓶のふたをあけることができるようになった。さらに練習すると、軽く閉めた状態からも開けることができるようになった。ただし、瓶のふたをあけることを目的とし、彼の自発性に任せすぎたため、期待する結果にはならなかった。手全体で包み込むようにして開けるのではなく、親指ではじくようにして開けるのが癖になってしまったのである。もう少し作業療法士に助言を求めるべきだったと反省している。瓶の中に好きなもののカード入れるのは、作業療法士と支援コーディネーターからの助言だったのだが、手の使い方についての細かい助言を求めなかったのである。私には瓶を親指だけで開けるというのは想定できなかったのだ。その後、作業療法士が来ない時期が続き、助言を受ける機会がなくなってしまった。結果的に、バッド・ハビットが身に付いてしまったのだ。
瓶のふたをあけ、iPadを借りるためのカードを取りだして私に渡すという生徒のインセンティブは達成されたことになる。また、「瓶のふたを開けることができる。」と記した個別の指導計画の目標も表面上は達成されたことになる。けれども、それが日常生活に生かされないということは、教師の自己満足といわれても仕方がない。個別の指導計画を作り、その達成を目指すやり方には、そういった、教師が自己満足に陥る落とし穴が潜んでいる。
やはり、素人の浅知恵だけでは、うまくいかないことが多いのだ。