特別支援の不思議な世界

高校教師だった私が特別支援学校勤務をきっかけに知ったこと考えたこと

学習障害(LD)と高校現場の支援・配慮

 昨年、勤務校に学習障害(LD)のある生徒が入学してきた。県教育委員会の指導で入学試験でも一定の配慮が行われた。

 

 学習指導要領では、高校でも障害のある生徒への支援が明記され、「通級による指導」も可能になった。ところが、現実にはこれがなかなか難しい。「通級による指導」は、必履修科目の時間は行えず、実業高校であれば専門科目の時間にも行えない。したがって、現実的には、通級による指導ができるのは選択科目の時間のみということになる。小規模校など選択科目を設定していない高校では、事実上不可能である。したがって、高校現場での障害に対する支援・配慮はより限定的なものにならざるを得ない。

 

 昨年入学してきた生徒には、ヒアリングをしてみた。はじめに特別支援担当がヒアリングを行い、その後各教科担当が個別にヒアリングして担当教科でどのような支援・配慮ができるのかを考えた。

 

 当該生徒は、2人とも読字障害による困難が大きいことが分かった。特に漢字は、黒板に書かれた文字や教科書・プリントの文字の細かいところがよくわからないとのことだった。教科書やプリントに長い文章があると、ごちゃごちゃして認識できなかったり、文字が次々に押し寄せてくるような感覚に襲われるともいっていた。

 

 できることは多くはない。長い文章を排除すればよいのだろうが、国語や社会(地歴・公民)など、長い文章の読解を目標の一つとしている教科もある。なかなか悩ましい問題だ。とりあえず、試行錯誤しながら、やってみた拙い支援・配慮を記す。

 

①長い文章を読むとき、定規を使って行を間違えないようにしたり、単語のまとまりにスラッシュを入れてみるよう助言した。定規を使って読むことについては、その場でやらせてみたときには、あまり効果はないとのことだった。とりあえず、しばらく続けてみてほしいと伝えたが、1か月ほどして生徒の一人がやはり読みやすいですと言ってきた。

 

②プリントはUD(ユニバーサル・デザイン)フォントを使うようにした。担当教員の打ち合わせの場で、私から提案してみたが、当初、教科の特性上難色を示す先生もいた。しかし、それぞれ試行錯誤して、1~2か月の間にほとんどの先生がUDフォントを使用するようになった。特別支援図書やwebの記事によれば、角がないため読みやすく、ADHDの生徒にも有効らしい。私は、とりあえずwordに入っているUDフォントを使った長い文章を数種類用意し、生徒にヒアリングして読みやすいものを選んだ。テストのたびにヒアリングを行い、その都度変更して改善した。なお、授業で使用するスライド(power point)も、この機会にすべてUDフォントに変更した。

 

③ブリントの行間を広くとるようにした。教科の特性もあり統一するまではいかないが、ほとんどの先生が以前より行間を広くとるよう努めているようだ。UDフォントを使うと、あまり行間を狭くはできないので、必然的にある程度は行間が広くなる。

私自身は、1テーマ1プリントの原則にしているため、A4サイズで45行ぐらいにしているが(授業プリントは1行につき1行あけている)、33行程度にしている先生もいる。行間を広くすると、必要事項が一枚に収まらなかったり、プリントの枚数が増えてしまうという問題がある。考査問題は、多くの先生が余裕を持った行間にしているようだ。

④考査問題では必要に応じて読みにくい漢字にルビをふる。授業では読みにくい漢字を大きく黒板に書きだす。これらは、当該生徒だけではなく、他の生徒も含めて行っている。当該生徒が特別扱いされることを嫌がることも理由の1つだが、《特別でない特別支援教育》の考え方からも悪くない方向性だと考えている。

私自身は考査問題のルビについては限定的にしか行っていないが、授業では配慮することを忘れてしまわないように、予めスライド(power point)に文字を大きくしてルビをふったものを用意し、授業の流れを損なわないようなタイミングで提示している。

 

 以上である。まったく拙い、できる範囲での支援・配慮であり、恥ずかしい限りだが、当該生徒は2人とも普通以上の成績で2年生に進級できた。ヒアリングすること、ヒアリングを繰り返し、修正・改善することが重要なのではないか、と今は思っている。

境界知能と高校の現場

「境界知能」については、以前にも記したことがある(「知的障害と境界知能」「IQと境界知能」)。

「境界知能」とは、一般には知能指数(IQ)が「70以上85未満」の人をいう。IQの平均値は100であり、その1偏差値は15なので、平均値±15、すなわち「85以上115未満」が平均域となる。「IQ70未満」は一般には知的障害とされるから、その間の「70以上85未満」は、知的障害と平均域のボーダーにあたり、「境界知能」ともいわれる。人口の約14%程度が該当するとされ、成人で中学校3年生程度の知的能力だとされる。

知的障害が「IQ70未満」とされたのは1970年代以降のことであり、それ以前はIQ85未満だった時期もあった。また、1965~1974年まで使用された世界保健機関(WHO)の国際疾病分類第8版でも「IQ70~84」は境界精神遅滞と定義されていた。現在、「IQ70未満」が知的障害とされてる背景には、「IQ70以上85未満」を知的障害に含めてしまうと、あまりに知的障害の人口が多くなってしまい、支援者の確保や財政の面で困難だという事情もあったようだ。したがって、「IQ70以上85未満」の人は本来支援が必要な人たちである可能性が高いが、行政の福祉サービスの支援から外れてしまう人たちなのである。

こうした境界知能(場合によっては知的障害)の可能性が高いのではないかと思われる生徒が、現在の高校には少なからず在籍している。原因の一つは少子化に伴う高校の定員割れの現実だ。私の住む宮城県においても、仙台市以外の地域にある高校は軒並み定員割れである。その傾向は《底辺校》《困難校》や工業・商業・農業・水産などの実業高校だけでなく、進学者の多い地域の拠点校にも及んでいる。定員割れの場合、よほどの合理的理由がなければ、不合格にできないのが現実だ。それが県の方針なのである。一方、中学校の特別支援学級に在籍する生徒も減少している。ずっと以前であれば、行政によって半強制的に特別支援学級に回された生徒が、人権(自己決定権)やインクルーシブ教育の理念を背景として、保護者や本人の希望で普通学級で学んでいる現実がある。普通学級の授業にまったくついていけなくても、普通学級に在籍し続けるのである。知能検査も受けないまま、普通学級に在籍するのだ。もちろん、支援員の配置などの配慮はあるようだが、根本的な解決にはなっていないようだ。

こうして、境界知能(場合によっては知的障害)が疑われる生徒たちは、有効な支援を受けることなく、中学校を卒業して高校に入学してくることになる。多くの先生方はそうした生徒が入学してくることに問題を感じているようだが、現実的な傾向は大きく変わりそうもない。おそらくは、学校が変わるしかないのであろう。先生方がそうした生徒をどのように受け入れるのかを考え、授業形態や評価システムなど学校のしくみそのものを変えるしかないのだ。それは学校の在り方の明治以来の大変革にならざるを得ないだろう。再任用教員としては、そのような大きな変化に適応できる自信も時間もない。

 

(参考)宮口幸治『境界知能の子どもたち』(SB新書:2023)

学習障害(LD)への対処法

学習障害(LD)を理解するためのメモである。高校現場での利用に資するため、岩波明発達障害の子どもたちは世界をどう見ているのか』(SB新書:2023)によって、学習障害(LD)への対処法の概要をまとめておく。

 

実際には、学習障害(LD)は一人一人の様態が異なるため、「読む」「書く」「計算する」という行為をそれぞれ細かいプロセスに分解して、《そのプロセスのどこでつまずいているのか》《そのとき子供にとって「世界」がどんなふうに見えているのか》を分析することが重要だという。そのため、障害のある当事者から正確にヒアリングして、対処法を検討する必要がある。

以下、同書に掲載されている対処例をメモしておく。

 

《読むのが苦手な人への対処法》

  • 読みやすくする工夫(文字を拡大する、ルビを振る、行間をあける、背景の色を変える、書体を変える、間違えやすい文字にマーカーで色付けするなど)。
  • 読み飛ばしをなくす工夫(指でなぞりながら読む、しおりや定規をあてながら読む、鉛筆や定規ですでに読んだ行を隠す、厚紙などを切って一行だけ見えるようにするシートを使う)。
  • 音声教材やイラストの多いテキストなど、特性に合わせたものを使用する。
  • ゆっくり読ませる。
  • 指などで一文字一文字を追いながら、読ませる。
  • 文字と音の正確な関連を教える。
  • 文の区切りを、1マスあけたり、「/」を入れたりして示した文で学ぶ。

 

《書くのが苦手な人への対処法》

  • 大きなマス目や広い罫線のノート、紙を使う。
  • 間隔をあけて書く。
  • ゆっくりていねいに書く
  • なぞり書きさせる、文字をパーツに分けて示す。
  • 点結び、線結びの練習をする。
  • 板書を写真に撮る、音声を自動で文字起こしするなど、ICTを有効活用する。
  • 漢字の覚え方を工夫する(書き順を音声化する、イラストなどのイメージにする、へんとつくりを別々にしたカードを作成し組み合わせる)
  • 文章を書く際は、まずは頭の中にあるものを単語レベルで書き出してみる
  • 模範的な文章を書き写す
  • パターン化した文章を数多く書く
  • 下書きを手伝う

 

《計算するのが苦手な人への対処法》

  • ゆっくり落ち着いて計算させる
  • 数字や記号は大きく印字する
  • 日々の生活の中で数に親しませる(お風呂で数を数える、おやつの数を数える)
  • ブロックやおはじきで数の概念を理解する
  • マス目のあるノートを使う
  • 九九は、表を見ながら覚える
  • パソコンのCGソフトなどを活用し、立体をリアルに再現する
  • 積み木などで立体をつくる
  • 数式の横に、文章でやり方などの説明を補足する
  • 長い文章問題は分解し、区切りごとに「ここまでは分かった?」と理解度を確認する
  • 問題文の内容をわかりやすく説明する
  • 少数は数直線を使用して理解させる
  • 分数はピザを切り分けるところから理解させる

 

《共通の対処法》

  • スマートフォンタブレット(デジタル教科書、アプリなど)を積極的に取り入れる。
  • 動画、漫画、図鑑などを有効活用する。
  • 体を動かし、体験しながら覚える
  • 一度に何問も解かせるのではなく、理解して正解出来たら休憩あるいは終了し、それを日々繰り返す。
  • できないことを叱るのではなく、一緒に考える。
  • 他の子どもと比較しない。
  • 落ち着いた雰囲気、環境を心がける

 

なお、LD全般にかかわる指導の原則として、次の3つを確認しておきたい。

  • 指導内容を細分化する
  • 具体的な教材を使用する
  • 子どものペースに合わせて繰り返し指導する

学習障害(LD)と教科の授業

学習障害(LD)について理解するためのメモである。高校現場での利用に資するために、岩波明発達障害の子どもたちは世界をどう見ているのか』(SB新書:2023)によって、学習障害(LD)の子どもたちが小学校の国語・算数の授業で抱える問題について、まとめておく。高校の現場でも参考になると思われる。

《国語》

▢ 読むことが苦手で、正しく読めない。

▢ 読む速度が遅く、正確でない

▢ 読み間違うことが多く、自分で変えて読んでしまう。

▢ 読めても、意味を理解していない。

▢ 単語の区切りがわからない。

▢ 文字を抜かして読む。

▢ 文字を正しく書けない。

▢ 書き取り・文章・作文を書くことが苦手。

▢ 漢字の部首(へんとつくり)を間違う。

▢ 複数の読みがある漢字に対応できない。

▢ 句読点など、文法に誤りが多い。

▢ 同じ音の表記に誤りが多い。

▢ 文章のルールがわからない(主語が抜ける、「てにをは」の誤りなど)。

読字障害・書字障害とも知覚認知に関係ある部分についてはそのメカニズムを理解しやすいが、「複数の読みがある漢字に対応できない」や「同じ音の表記に誤りが多い」などが生じるメカニズムについて今一つすっきりと理解できない。

 

《算数》

▢ 数の概念が理解できない。数式や記号の意味がわからない。

▢ 暗算ができない。計算の時に指を使わないとできない。

▢ 数字の桁が理解できない。

▢ 繰り下がり、繰り上がりがわからない。

▢ 九九を暗記しても応用できない。

▢ 文章問題が苦手、わからない。

▢ 応用問題、図形問題がわからない。

「数字の桁が理解できない」とはどのようなことだろうか。十進法が理解できないということだろうか。「九九を暗記しても応用できない」とは機械的な暗記はできるが、かけ算のしくみや意味が理解できないということだろうか。

学習障害(LD)の「症状」

学習障害(LD)について理解するためのメモである。

岩波明発達障害の子どもたちは世界をどう見ているのか』(SB新書:2023)によって、その「症状」をまとめておく。

 

[読字障害の症状]

〇文字が歪んで見えたり、重なって見えたりする。

〇似た文字を区別することが苦手である。

〇文中の語句や行を抜かしたり、繰り返し読んだりする。

〇読み間違いか多い。

〇漢字の意味はわかるのに読めない。

〇単語や文の区切りがよくわからない。

〇音読すると意味がわからなくなってしまう。

〇読み方がたどたどしい。

〇勝手な読み方をする。

読字障害のメカニズムについては理解しやすい気がする。多くは「視覚認知」に関係する問題なのだろう。

 

[書字障害の症状]

〇言葉を理解しいても、文字を書けない。

〇鏡文字を書いてしまったり、勝手な文字を書いてしまう。

〇黒板やプリントの字を書き写せない。

〇形が似ているひらがなやカタカナを書き間違える(「ぬ」と「め」など)。

〇小さな「っ」の音、最後が「ん」の音、「しゃ」など2文字の音がかけない。

〇ひらがなは書けても、漢字が書けない。

〇漢字のへんとつくりが逆になる。

〇書き順が覚えられない。

〇文字の形や大きさがバラバラになったり、マス目からはみ出す。

〇文章が読みにくい、句読点が抜ける。

〇文法的に誤りが多い。

〇話していることが書き記せない。

書写障害のメカニズムについては、すっきり理解しにくい。視覚認知や聴覚認知の問題が背景にある場合もあるようだ。

 

[算数障害の症状]

〇数字の桁が理解できない。

〇繰り上がり、繰り下がりがわからない。

〇九九は暗記できても、計算に使えない。

〇暗算ができない、指を使って計算する。

〇算数の用語や、数式の記号がわからない。

〇数字や記号の見落としが多い。

〇図形が理解できない。

〇文章問題で何を問われているのかわからない。

〇自分で計算式を立てられない。

基本的な数字の概念や計算記号、数字の規則性を理解するのが困難だということなのだが、目に見えない概念的思考が苦手ということなのだろうか。読字障害や書字障害は「認知」の問題として理解できるが、算数障害はどうもよくわからない。

学習障害(LD)について

現在の高校の現場には、学習障害(LD)の診断のある生徒やそれと疑われる生徒が多く在籍している。学習障害(LD)について、岩波明発達障害の子どもたちは世界をどうみているのか』(SB新書2023)によって概要をまとめておく。

学習障害は、Learning Disorders あるいはLearning Disabilities の訳であり、LDと略していわれることが多い。文部科学省の定義では、「全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する、推論するなどの能力と使用に著しい困難を示す、さまざきな障害」とされる。したがって、概念上、特別支援学校には学習障害(LD)は存在しないことになる。だから、学習障害(LD)は支援学校勤務ではあまり学べない分野だ。もちろん、現実には知的な遅れがあっても、特定の分野の能力が弱いということはあるのだが。学習障害(LD)の原因は、脳の特定の部位における何らかの機能障害に起因するものと推定されているが、現在のところ明確な結論は得られていないようだ。アメリカ精神医学会の精神疾患の診断・統計マニュアル(第5版)」(DSM-5)によれば、学習障害(LD)の下位分類として、読字障害・書字障害・算数障害があげられている。

読字障害(Dislexia ディスレクシア)は、学習障害(LD)のうち最も頻度が高いとされる障害であり、学習障害(LD)の多くは読字障害であるともいわれる。「読み」に困難がある障害であり、単語のまとまりから1つの単語を識別したり、1つの単語の中の音素を識別したりするのが困難であるとされる。具体的には、「読み」そのものに時間がかかる例、行間に隙間がないと文字を読むことが困難な例などがみられるらしい。読字障害のある人は、文字が《にじむ》《ゆらぐ》《左右逆さまになる》《かすむ》などのように見え、読み間違いを起こすのだという。「読む」とは、文字を認識して音と結び付け、いくつかの文字のつながりを単語として認識し、文を理解する行為であり、このプロセスのどの段階でつまずいているのかを見極めることが大切なのだという。

書字障害(Dysgraphia ディスグラフィア)は、文字や文章を書くことに困難が生じる障害であり、書字障害のある人は、形の似た文字を混同したり、文字の順番を間違えたり、書き間違えたり、漢字を部分的に間違えたりするようだ。「書く」といってもいろいろあるが、お手本を書き写すことが困難な場合は、視覚認知の問題が絡んでいることもあり、先生の話したことを書くのが困難な場合は聴覚認知の問題が背景にあることもあるらしい。また、読字障害と書字障害の2つ、つまり「読むことだけでなく、書くことも苦手」な人も多いという。

算数障害(Dyscaliculia ディスカリキュリア)は、計算や推論が困難な障害であり、数字や記号がわからない、計算ができない、九九が覚えられない、などの症状がみられるという。算数障害のある人は、「1,2,3・・」などの数字の概念や、「+,-,×,÷,」などの記号や数字の規則性を認識するのが困難なのだという。よく考えてみれば、数字や演算は目で見えるものではなく、概念的思考なのであり、簡単なことではないのだ。

学校教育では、学年が上がるにつれ、各科目で求められる思考が高度化・複雑化していくため、学習障害(LD)の悩みは学年が上がるにつれ大きくなる傾向があり、そのことが原因で自信を失い、うつや不安障害などの二次障害につながる場合もある。一方、学習障害(LD)は、自閉症スペクトラム障害ASD)や注意欠如多動性障害(ADHD)、さらには発達性強調運動障害との併存も多く、社会的コミュニケーションへの影響も懸念される。

ところで、LDの症状は「~できない」ではなく、「~するのが難しい」というものである。時間がかかったり、サポートが必要だったりするが、できるのだ。実際、最近の入学試験では、読字障害について《問題文をよみあげてくれる》などの配慮があったり、書字障害では《試験時間の延長や問題用紙の拡大》、算数障害でも《試験時間の延長》などの配慮がなされることがあるようだ。実際、私の勤務する高校でも、問題用紙・解答用紙の拡大や試験時間の延長、漢字にルビをふるなどの配慮がなされたことがある。

 

岩波明発達障害の子どもたちは世界をどうみているのか』(SB新書2023)

発達特性へのアプローチと二次障害

本田秀夫『発達障害』(SB新書2018)は、発達障害へのアプローチの方法として「ボトムアップ」式と「トップダウン」式を挙げている。

ボトムアップ」式とは発達を促進し能力を底上げしようとするアプローチであり、発達の特性があって苦手なところを少しでも普通に近づけようとする方法である。一方、「トップダウン」式とは特性があって苦手なところについて、それを補完する手段を考えるアプローチである。

本田氏は次のように述べる。

発達の特性は一種のスタイルなもので、努力や練習だけで底上げできるものではないので、「ボトムアップ式」だけではうまくいきません。

たとえば、親や学校の先生などがよかれと思って、子どもの苦手なことの練習を重点的に行うという「ボトムアップ式」のケースがときおり見られます。しかし、苦手なことの背景に発達の特性がある場合、そういった練習はまずうまくいきません。子どもを苦しませるだけです。

もちろん、本田氏は「ボトムアップ式」を全否定しているわけではないが、「環境調整を行うときは、このような混乱をさけるため、最初から《トップダウン式》のアプローチをとることが大切です。」と述べている。

子ども苦しませることが《二次障害》につながることは、十分に理解しておかなければならない。発達障害がある人には自分に自信がもてず、何ごともうまくいかないのではないかと悲観的に考え、不安を抱える人が多いようだ。さらに、本田氏は述べる。

そうした精神的な不調は、発達の特性ではなく、主に生活上のストレスによって引き起こされる、二次的な問題です。

 

特別支援学校では4年間勤務し、いろいろなことを学び考えた。現在は再任用教諭として高校に勤務しており、特別支援学校での経験を、高校でも生かせればと考えている。実際、高校の現場では、障害のある生徒はどんどん増えている。自閉症スペクトラムASD)や注意欠如多動性障害(ADHD)はもちろんのこと、学習障害(LD)や高次脳機能障害、難病を抱えた生徒も入学している。

今思えば、特別支援学校時代は「ボトムアップ」式のアプローチか多かったと思う。それらの取り組みは、多分に自己満足的な要素を含んでおり、それはこのブログの過去の記事からも感じ取られる。一方、それらの取り組みが可能だったのは、支援学校に人的・時間的余裕があったからだ。障害のある生徒と1対1できちんと向き合って取り組める環境があったのだ。

高校の現場はそうはいかない。生徒側からみれば正規の勉強や課外活動もある。教師側からみれば授業や分掌の仕事・部活動指導と並行して、それらの障害と向き合わなければならない。「ボトムアップ式」的なアプローチは、それ自体、現実的に非常に困難である。

《二次障害》を回避する視点からも、高校現場の現実的な状況からも、手探りで、「トップダウン」式のアプローチを考えていかなければならない。

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北条氏の他氏排斥過程ではない


◎今日の一枚 589◎
Joao Gilberto
Amorosa
 『鎌倉殿の13人』に関する話題である。ドラマでは、頼朝が死に、いよいよ有力御家人間の血生臭い勢力争いが始まった。すでに、梶原景時が排斥され、阿野全成が誅殺され、先週は比企能員が滅ぼされた。幕府内紛の主な事件をまとめておくと、次の通りである。
1999 源頼朝の死
1200 梶原景時が滅ぼされる
1203 阿野全成が誅殺される
1203 比企能員が滅ぼされる
1203 源頼家が幽閉される(翌年死亡)
1205 畠山重忠が滅ぼされる
1205 北条時政が幽閉される
1213 和田合戦(和田義盛が滅ぼされる)
1219 源実朝が暗殺される
 高校の授業では、これらを「北条氏の他氏排斥過程」として一括して取り上げることが多い。しかし、本当はそれは間違っている。それは北条氏が権力を握ることを前提として、そこから遡及した見方だ。実際の歴史の「現場」では、どっちに転ぶかわからなかったはずだ。例えば、「比企能員の乱」というが、実際には、その時点での幕府内での勢力は比企氏の方が優勢だったはずであり、その状況をひっくり返すために北条時政がクーデターを起こしたというのが本当のところだろう。一歩間違えば失敗に終わったかも知れなかったのだ。だから、この事件は《乱》などではない。それは最終的には北条氏が権力を握るのが正しかったのだとする吾妻鏡』的な見方だ。
 鎌倉時代史の中心史料『吾妻鏡』は、北条氏の正当性を主張するために編纂されたものだ。それぞれの事件は、京都側の史料などを参照しつつ、注意深く分析されなければならない。その意味では、ドラマで比企能員の乱」がクーデターとして描かれていたことは注目されてよい。
 今週は、いよいよ頼家の幽閉かも知れない。血生臭い抗争はまだまだ続く。

 今日の一枚は、ジョアン・ジルベルトの1977年作品『イマージュの部屋』である。Apple Musicで今日初めて聴いた。きっかけは、kindleの読み放題でたまたま読んでいた鈴木良雄『人生が変わる55のジャズ名盤入門』の54位に取り上げられていたからだ。友人たちが取り上げた55の作品にジャズベーシストの鈴木良雄がコメントを付すといった趣向の本である。この作品について、鈴木氏はあまり興味はないようであるが、ジョアン・ジルベルトが日本でのコンサートの時、疲れてステージ上で寝てしまって、その間客がずっと静かに待っていて、目が覚めたらまた歌いだしたらしい、という話が載っていた。静かな歌だったから、それも演出だと思ったのかもしれないと書かれていた。本当だろうか。
 暑い夏に、クーラーの効いた部屋で、庭を眺めながら聴くのには悪くない作品である。異なる状況では、やや退屈かもしれない。

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Dragonfly Summer
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