特別支援の不思議な世界

高校教師だった私が特別支援学校勤務をきっかけに知ったこと考えたこと

発達特性へのアプローチと二次障害

本田秀夫『発達障害』(SB新書2018)は、発達障害へのアプローチの方法として「ボトムアップ」式と「トップダウン」式を挙げている。

ボトムアップ」式とは発達を促進し能力を底上げしようとするアプローチであり、発達の特性があって苦手なところを少しでも普通に近づけようとする方法である。一方、「トップダウン」式とは特性があって苦手なところについて、それを補完する手段を考えるアプローチである。

本田氏は次のように述べる。

発達の特性は一種のスタイルなもので、努力や練習だけで底上げできるものではないので、「ボトムアップ式」だけではうまくいきません。

たとえば、親や学校の先生などがよかれと思って、子どもの苦手なことの練習を重点的に行うという「ボトムアップ式」のケースがときおり見られます。しかし、苦手なことの背景に発達の特性がある場合、そういった練習はまずうまくいきません。子どもを苦しませるだけです。

もちろん、本田氏は「ボトムアップ式」を全否定しているわけではないが、「環境調整を行うときは、このような混乱をさけるため、最初から《トップダウン式》のアプローチをとることが大切です。」と述べている。

子ども苦しませることが《二次障害》につながることは、十分に理解しておかなければならない。発達障害がある人には自分に自信がもてず、何ごともうまくいかないのではないかと悲観的に考え、不安を抱える人が多いようだ。さらに、本田氏は述べる。

そうした精神的な不調は、発達の特性ではなく、主に生活上のストレスによって引き起こされる、二次的な問題です。

 

特別支援学校では4年間勤務し、いろいろなことを学び考えた。現在は再任用教諭として高校に勤務しており、特別支援学校での経験を、高校でも生かせればと考えている。実際、高校の現場では、障害のある生徒はどんどん増えている。自閉症スペクトラムASD)や注意欠如多動性障害(ADHD)はもちろんのこと、学習障害(LD)や高次脳機能障害、難病を抱えた生徒も入学している。

今思えば、特別支援学校時代は「ボトムアップ」式のアプローチか多かったと思う。それらの取り組みは、多分に自己満足的な要素を含んでおり、それはこのブログの過去の記事からも感じ取られる。一方、それらの取り組みが可能だったのは、支援学校に人的・時間的余裕があったからだ。障害のある生徒と1対1できちんと向き合って取り組める環境があったのだ。

高校の現場はそうはいかない。生徒側からみれば正規の勉強や課外活動もある。教師側からみれば授業や分掌の仕事・部活動指導と並行して、それらの障害と向き合わなければならない。「ボトムアップ式」的なアプローチは、それ自体、現実的に非常に困難である。

《二次障害》を回避する視点からも、高校現場の現実的な状況からも、手探りで、「トップダウン」式のアプローチを考えていかなければならない。