特別支援の不思議な世界

高校教師だった私が特別支援学校勤務をきっかけに知ったこと考えたこと

知的障害と境界知能

 知的障害とは一般にIQ70未満をいうが、これは全世界的には人口の2.1%程度であることが知られている。ところが、その89%までがIQ50~69までの軽度の知的障害だという。IQ50とは成人に達したときの知的能力が、健常発達の9歳前後、すなわち小学4年生程度であり、特別支援教育をきちんと積み重ねていけば、社会的自立は可能であるといわれている。経済的自立はもちろん、結婚や子育てにおいても、必要なときのみ若干のサポートがあれば可能であるとされる。適切な特別支援教育を受けることが重要であるということだ。

 一方、重度の知的障害については、その多くが発達障害を伴う。知的な障害が重いほど、自閉症等の併存率は高くなるのだそうだ。したがって、重度の知的障害ほど情緒的に不安定になりやすく、対応や指導が難しくなるのが現実だ。多くは、生活介護施設で暮らすことになるのが現状であろう。

 知的なハンディキャップでもう一つ重要なのが、IQ70~84前後の「境界知能」である。知的障害を伴わない発達障害の中で「境界知能」が占める割合は非常に高いという。注目されるのは、虐待を受けた児童において知能検査をしてみると、その大半が「境界知能」であるということだ。さらに、少年非行の事例においては、正常知能を示すものはまれで、ことごとく「境界知能」を示すらしい。これらの少年には学習の遅れを伴うものが多く、特に国語力の不足が内省力の低さに直結し、非行に走りやすい傾向を生むという。単純に考えれば、「境界知能」の人がそのことゆえに虐待を受け、情緒的なダメージを受けて非行に走るというストーリーになろうか。

 こうしてみると、「境界知能」の生徒については、不要な劣等感を与えずどのように支援し伸ばしていくかが問題となるようだ。実際、小学校中学年の9歳前後に良い教師に出会った「境界知能」児は、壁をのりこえて、小学校高学年には正常知能になることが多かったという報告もある。知能指数は固定的なものではないのた。軽度の発達障害児において「境界知能」が多い理由は、脳の一部の領域は良好でも全体を動かすとなるとだめという脳機能障害を抱えるものが少なくないからだといわれる。「境界知能」においてはどの項目が良好で、どの項目が不良かというばらつきを検討し、子どもの得意な領域を推定して、どのようにすれば補完できるのかを考えることが重要となる。

 境界知能の子どもは、教師の力量がもっともよく表れる存在なのだ。

杉山登志郎発達障害の子どもたち』講談社現代新書2007