特別支援の不思議な世界

高校教師だった私が特別支援学校勤務をきっかけに知ったこと考えたこと

学習障害(LD)について

現在の高校の現場には、学習障害(LD)の診断のある生徒やそれと疑われる生徒が多く在籍している。学習障害(LD)について、岩波明発達障害の子どもたちは世界をどうみているのか』(SB新書2023)によって概要をまとめておく。

学習障害は、Learning Disorders あるいはLearning Disabilities の訳であり、LDと略していわれることが多い。文部科学省の定義では、「全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する、推論するなどの能力と使用に著しい困難を示す、さまざきな障害」とされる。したがって、概念上、特別支援学校には学習障害(LD)は存在しないことになる。だから、学習障害(LD)は支援学校勤務ではあまり学べない分野だ。もちろん、現実には知的な遅れがあっても、特定の分野の能力が弱いということはあるのだが。学習障害(LD)の原因は、脳の特定の部位における何らかの機能障害に起因するものと推定されているが、現在のところ明確な結論は得られていないようだ。アメリカ精神医学会の精神疾患の診断・統計マニュアル(第5版)」(DSM-5)によれば、学習障害(LD)の下位分類として、読字障害・書字障害・算数障害があげられている。

読字障害(Dislexia ディスレクシア)は、学習障害(LD)のうち最も頻度が高いとされる障害であり、学習障害(LD)の多くは読字障害であるともいわれる。「読み」に困難がある障害であり、単語のまとまりから1つの単語を識別したり、1つの単語の中の音素を識別したりするのが困難であるとされる。具体的には、「読み」そのものに時間がかかる例、行間に隙間がないと文字を読むことが困難な例などがみられるらしい。読字障害のある人は、文字が《にじむ》《ゆらぐ》《左右逆さまになる》《かすむ》などのように見え、読み間違いを起こすのだという。「読む」とは、文字を認識して音と結び付け、いくつかの文字のつながりを単語として認識し、文を理解する行為であり、このプロセスのどの段階でつまずいているのかを見極めることが大切なのだという。

書字障害(Dysgraphia ディスグラフィア)は、文字や文章を書くことに困難が生じる障害であり、書字障害のある人は、形の似た文字を混同したり、文字の順番を間違えたり、書き間違えたり、漢字を部分的に間違えたりするようだ。「書く」といってもいろいろあるが、お手本を書き写すことが困難な場合は、視覚認知の問題が絡んでいることもあり、先生の話したことを書くのが困難な場合は聴覚認知の問題が背景にあることもあるらしい。また、読字障害と書字障害の2つ、つまり「読むことだけでなく、書くことも苦手」な人も多いという。

算数障害(Dyscaliculia ディスカリキュリア)は、計算や推論が困難な障害であり、数字や記号がわからない、計算ができない、九九が覚えられない、などの症状がみられるという。算数障害のある人は、「1,2,3・・」などの数字の概念や、「+,-,×,÷,」などの記号や数字の規則性を認識するのが困難なのだという。よく考えてみれば、数字や演算は目で見えるものではなく、概念的思考なのであり、簡単なことではないのだ。

学校教育では、学年が上がるにつれ、各科目で求められる思考が高度化・複雑化していくため、学習障害(LD)の悩みは学年が上がるにつれ大きくなる傾向があり、そのことが原因で自信を失い、うつや不安障害などの二次障害につながる場合もある。一方、学習障害(LD)は、自閉症スペクトラム障害ASD)や注意欠如多動性障害(ADHD)、さらには発達性強調運動障害との併存も多く、社会的コミュニケーションへの影響も懸念される。

ところで、LDの症状は「~できない」ではなく、「~するのが難しい」というものである。時間がかかったり、サポートが必要だったりするが、できるのだ。実際、最近の入学試験では、読字障害について《問題文をよみあげてくれる》などの配慮があったり、書字障害では《試験時間の延長や問題用紙の拡大》、算数障害でも《試験時間の延長》などの配慮がなされることがあるようだ。実際、私の勤務する高校でも、問題用紙・解答用紙の拡大や試験時間の延長、漢字にルビをふるなどの配慮がなされたことがある。

 

岩波明発達障害の子どもたちは世界をどうみているのか』(SB新書2023)