特別支援の不思議な世界

高校教師だった私が特別支援学校勤務をきっかけに知ったこと考えたこと

2020-05-01から1ヶ月間の記事一覧

「自分でストレッチ」を育てる

知的障害と肢体不自由の生徒を担当したときのことである。ひどい拘縮のため、右手がほとんど使えない生徒だった。右手の拘縮は身体全体のバランスにも影響を及ぼし、歩行姿勢が安定しない生徒だった。 素人の浅知恵で、覚えたての動作法を用いて関節を伸ばし…

「色の認識」の失敗

うまくいかなかった例である。素人の浅知恵だった。 色の認識に課題のある生徒だった。前任の先生からの引継ぎがあり、障害が原因だろうとのことだった。一応、赤、青、黄で試してみた。間違えることも多いものの、意外と正解することも多かった。できるので…

障害者雇用代行ビジネス

障害者雇用に「法定雇用率」が果たしてきた役割は大きい。「法定雇用率」は、2020年現在、2.2%、企業は45.5人に1人の割合で障害者の雇用が義務付けられている。2021年には2.3%に引き上げられる予定である。「法定雇用率」をクリアしている企業には1人につき2…

特別支援教育のインセンティブ

特別支援学校に異動して違和感をもったことの1つが、先生方が必要以上に保護者に気を遣うことと、学校行事等を奇妙なほどに盛り上げようとすることだ。保護者の意向を尊重することは当然のことであり、子どもに障害があるのであればなおさらのことだが、子…

「特例子会社」制度

特例子会社制度とは、大企業グループ傘下のいずれかの会社が障害者を雇用する子会社を設立すれば、企業グループ全体としての障害者法定雇用率にカウントしてもよいという特例措置である。この制度により大企業を中心に障害者の雇用が劇的に増えたといわれる…

「大小の概念」を育てる

大小の概念を身に付けさせるのは難しい。そもそも、大きい小さいの意味がわからないのだから、ものを2つ並べて「どっちが大きい」と聞いてもダメなのだ。我々だって、大きいとはどういうことか、と聞かれれば答えに困ってしまうだろう。仮に答えられたとし…

「文で話す力」を育てる

ある生徒を、文で話せるようにしようと取り組んだときの話である。高等部の3年生で、二語文程度は話せる生徒だったが、語いは非常に少なく、文字も読めなかった。有効な方法がわからなかったので、素人の浅知恵で、絵カードを見ながら、私の話した文を繰り返…

「短期記憶」を育てる

「短期記憶」のことを考えたのは、ある生徒を文で話せるようにしようと取り組んだ時だ。二語文程度は何とか話せる生徒だったが、語いは少なく、文字も読めなかった。私が話した文を、後に続いて繰り返すトレーニングをしていたが、なかなかうまくはいかなか…

「目と手の協応」を育てる

特別支援学校に異動して最初に担当した生徒のひとりが、「目と手の協応」に課題がある生徒だった。私自身、「目と手の協応」などという言葉を知ったのはそれが初めてだった。前年までその生徒を担当した先生から一応の説明を受けたが、発語がなく、紙パンツ…

数の認識を育てる

私のように、高校から異動してきた、しかも文系の教師にとって、数の概念が育っていない生徒にそれを教えるのは難しい。本に書かれていることや、元小学校教諭で特別支援学級の経験もある妻からの助言を参考にして、いわば見よう見まねでやってみた。相手は…

進化論と発達障害

優生思想は、進化論をベースに、生物の遺伝構造を改良することで人類の進歩を促そうとする社会思想であると考えることができる。ところが、ここには一つの誤謬がある。進化論の創始者であるC・ダーウィンが唱えたのは「適者生存説」であり、必ずしも優位の種…

ルソーの差別的優生思想

ジャン・ジャック・ルソーの障害者(病弱者)に対する考えは有名である。それは明白な優生思想的差別であるが、今日的立場から断罪するのではなく、論理構成を検証することが重要であると考えられる。なぜなら、それは歴史的制約だけでなく、ルソーの思想そ…

ASDと統合失調症

自閉症スペクトラム障害(ASD)と統合失調症の類似性が指摘されている。ASDと統合失調症を見分けることは非常に難しく、ASDの概念が浸透していない過去の時代においては、ASDが統合失調症と誤診されたことも多かったらしい。また、ASDの2~3%の割合で、両者…

「社会モデル」の陥穽

人間がもっているはずの視力、聴力、臓器の働き、運動や知的能力などの基本的な機能について、一定の基準を満たさないとき、「障害者」として認定される。その判断をするのが医学的な知識を有する医師であることから、こうした障害の定義づけを「医学モデル…

奇妙な用語「合理的配慮」

最近はやりの、「合理的配慮」は奇妙な用語だ。言葉の意味をそのままとれば、配慮には合理的なものとそうでないものがあり、合理的な配慮をすべきだということになる。その場合、「合理的」とは、障害のある人たちにとって理にかなった、というニュアンスに…

奇妙な用語「就学免除・猶予」

日本で障害児教育の義務制が実施されたのは、1979(昭和54)年のことだ。それ以前は、「就学免除・猶予」の措置で、重度の障害児は事実上学校教育から除外されていたのである。 特別支援教育には、一般的な感覚から考えて理解しがたい奇妙な用語がいくつもあ…

個別の指導計画

特別支援学校には、私のように普通の高校から異動した教師には初体験のものがいくつもある。「個別の指導計画」もその一つだ。 特別支援学校学習指導要領は、次のように述べ、特別支援学校のすべての指導において「個別の指導計画」なるものを作成・活用する…