特別支援の不思議な世界

高校教師だった私が特別支援学校勤務をきっかけに知ったこと考えたこと

進化論と発達障害

  優生思想は、進化論をベースに、生物の遺伝構造を改良することで人類の進歩を促そうとする社会思想であると考えることができる。ところが、ここには一つの誤謬がある。進化論の創始者であるC・ダーウィンが唱えたのは「適者生存説」であり、必ずしも優位の種が生き残ることを説いているわけではない。知的で強い種が環境に適応できずに絶滅し、劣等で弱い種が生き残る場合もあるのだ。

 進化論といえば、発達障害との関係を説く考え方がある。その特性が進化の過程で重要であった可能性があるという説だ。例えば、自閉症スペクトラム(ASD)の物への興味や細部へのこだわりは、気候や生活の場の微細な変化に気づき、天災などを予測して逃れることにつながったかもしれない。また、ADHDの大胆で危険を顧みない行動力は、新境地や新食材を開拓することにつながったかもしれない。必要でない形質が進化の過程で淘汰され、必要な形質が残っていくのだとすれば、発達障害が高頻度で存在していることは興味深い。

 一方、優生思想にはもう一つの誤謬がある。優生思想は人間を優劣で理解しようとするが、人間の優劣とは倫理や道徳など価値観の領域に関係するものであり、生物学的な問題とは次元を異にするということだ。

 

岩波明『誤解だらけの発達障害』(宝島社新書)2019