特別支援の不思議な世界

高校教師だった私が特別支援学校勤務をきっかけに知ったこと考えたこと

奇妙な用語「就学免除・猶予」

 日本で障害児教育の義務制が実施されたのは、1979(昭和54)年のことだ。それ以前は、「就学免除・猶予」の措置で、重度の障害児は事実上学校教育から除外されていたのである。

 特別支援教育には、一般的な感覚から考えて理解しがたい奇妙な用語がいくつもあるが、「就学免除・猶予」もその一つだ。その言葉そのものからは、学校教育を受けることを免除あるいは猶予してもらうことができる、つまり何らかの理由がある場合には学校教育を受けなくてもいいという、リベラルなイメージを受ける。しかし、実際には全く逆だ。重度の障害児が学校教育が受けられないことを意味する言葉なのだ。

 1947(昭和22)年に公布された「教育基本法」は、「すべて国民は、ひとしく、その能力に応ずる教育を受ける権利を与えられなければならない・・・」と教育の機会均等の原則を規定し、「学校教育法」第1条において「学校とは、小学校、中学校、高等学校、大学、盲学校、聾学校養護学校及び幼稚園とする。」として盲、聾、養護学校が学校教育体系に明確に位置付けられた(第6章には「特殊教育」に関する必要事項も定められた)。ところが、同じ学校教育法の23条には「病弱、発育不完全その他やむを得ない事由のため、就学困難と認められる者の保護者に対しては、市町村立小学校の管理機関は、監督庁の定める規定により、教育に関し都道府県の区域を管轄する監督庁の認可を受けて、前条第一項に規定する義務を猶予又は免除することができる。」とあり、重度障害のある子どもは事実上学校教育から除外されたのである。

 この場合、義務を猶予又は免除されたのは保護者であり、それは「日本国憲法」第26条第二項の「すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。」という規定に対応するものである。重要なのはその決定が、市町村立小学校の管理機関が監督庁の定める規定によりなされるという点である。その決定は行政内部の問題であり、重度障害のある子どもやその保護者は不在なのだ。就学を「免除」や「猶予」してもらうわけではなく、一方的に「免除」「猶予」されるわけだ。

 「就学免除・猶予」という奇妙な用語は、法律の一部分が独り歩きして一般的なイメージと乖離したものになってしまったのである。

 

 

柘植雅義・木舩憲幸『特別支援教育総論』(放送大学教材)2015

安藤隆男『特別支援教育基礎論』(放送大学教材)2015

茂木俊彦『障害児教育を考える』(岩波新書)2007

高谷清『重い障害を生きるということ』(岩波新書)2011