特別支援の不思議な世界

高校教師だった私が特別支援学校勤務をきっかけに知ったこと考えたこと

「特例子会社」制度

 特例子会社制度とは、大企業グループ傘下のいずれかの会社が障害者を雇用する子会社を設立すれば、企業グループ全体としての障害者法定雇用率にカウントしてもよいという特例措置である。この制度により大企業を中心に障害者の雇用が劇的に増えたといわれる。

 法定雇用率とは、「障害者雇用促進法」に定められた、障害者を雇用しなければならない割合のことである。法定雇用率は、現在、2.2%で、45.5人以上雇用している会社は1人以上の障害者を雇用しなければならないことになる。2021年4月には2.3%に引き上げられる予定になっている。

 特例子会社制度のメリットは、企業が障害者向けの業務や設備を1か所に集約できることと、親会社とは別の人事や給与体系をとることができる点だ。例えば、清掃や郵便物分別、シュレッターなど、企業の各部署に散らばっていた間接業務(「雑用」)や、外部委託していた業務をひとまとめにして、特例子会社の仕事にするわけだ。

 中島隆信『障害者の経済学』は、この制度の問題点として次のような問題点を指摘している。第一に、もともと外部に委託していた仕事を特例子会社にまかせるということは、新しい雇用を生み出しているわけではなく、障害者が外部の仕事を奪ってしまっていることになるのではないかという点である。。もともと間接業務の外部委託が効率化のために始まったことを考えれば、これに反しているとも考えられる。第二に、「雑用」は本来、減らした方がいい性質のものであり、企業の効率化あるいは生産性の向上が進めば進むほど、障害者の仕事は減ってくることになるという点である。それでもなお、法定雇用率達成のために社内の「雑用」を寄せ集めて特例子会社に任せれば、特例子会社が企業内障害者施設のようになってしまう。

 障害者を雇用してくれることはありがたいことだが、「大きな声で挨拶してくれてきもちいい」とか「障害者が生き生きと働くのを見て元気がもらえる」「障害者の笑顔に癒される」など仕事とは関係ないことが雇用の意義となってしまっていては、障害者が労働の意欲を見いだすことは難しいことなのかもしれない。

中島隆信『新版・障害者の経済学』(東洋経済新報社)2018