特別支援の不思議な世界

高校教師だった私が特別支援学校勤務をきっかけに知ったこと考えたこと

A型事業所の現実

 障害者の就労支援施設には,「就労移行支援事業所」「就労継続支援A型事業所」「就労継続支援B型事業所」の3つがあり,いわゆるA型事業所とは「就労継続支援A型事業所」のことだ。

 A型事業所は,一般企業への就職が難しい障害者が職員の福祉サポートを受けながら働らき,生産活動能力の向上を目指すことのできる施設である。対象となるのは,①一般企業で働いた経験があるが,障害により離職して現在働いていない人,②就労移行支援事業所で訓練して就労しようとしたができなかった人,③特別支援学校を卒業し就労希望だったができなかった人,である。B型との違いは,雇用契約を結んで最低賃金制の適用を受ける点にある。したがって,B型に比べて経済的に多くの収入を得ることができるが,仕事の強度と責任は増すということになる。

 A型事業所に対しては、職員の人件費や運営経費をまかなうため,国や自治体から利用者数に応じて一定の給付金や助成金が支給される。利用者(就業者)も福祉サービスの利用料を支払うのが原則であるが,収入によって負担額が決まることから,現実には約9割の人が無料で利用しているという。

 A型作業所では障害の実情に合わせて働くことになるため,実際にはフルタイムで働く人は多くはなく,多くはパートタイム労働だ。すると,例えば労働時間が1時間であればA型事業所は1時間分の最低賃金を支払えば済み,給付金からこの分と事業経費を差し引いても採算がとれることになる。このため,利用者数を増やし,一人一人の障害者の就労時間を短縮すれば収益を増やすことができるため、2000年代後半から2010年代にかけて,ビジネスとして参入する事業所が急増した。給付金目当ての,福祉を食い物にする,《理念なき事業所》といわれても仕方のないA型事業所である。

 給付金は本来,福祉サービスのの運営費や支援職員の人件費に充てられるべきものであり,利用者(働く障害者)の賃金とされるべきものではない。利用者の賃金に充ててしまうと,そこで働く職員の給与が低くなってしまうことになるからだ。こうした実態に対して,厚生労働省は2017年4月,不適切な運営をしているA型事業所が増えているとして,給付金を障害者の賃金に充ててはならないという規制を強化した。この規制強化により,今度は逆に,閉鎖に追い込まれるA型事業所が増えることになった。例えば,2019年には前年比30.4%,30件のA型事業所が閉鎖に追い込まれたという。私の住む街にあった唯一のA型事業所も半年ほど前に事業を「休止」したばかりだ。

 当然のことだが,すべてのA型事業所が《理念なき事業所》ではない。《理念のある事業所》だって数多くある。ただ,A型事業所が利用者に最低賃金を支払い,存続・発展するためには,収益を上げることが絶対的な条件となる。しかし,A型事業所が,収益を上げるために,新しい商品の開発や販路開拓を行い,また採算がとれる仕事を見つけてくることは非常に難しく,大半の事業所ではやむを得ず給付金を賃金に回しているのが現実だという。福祉を食い物にするビジネスが横行することはもちろん問題だか,それらが一定の意味で障害者に働く場を与えてきたこともまた現実である。すくなくともいえるのは,規制を強化するだけの政策では,《理念のある事業所》も含めた多くのA型事業所が存続困難になり,結果として障害者の働く場が失われてしまうということであろう。