特別支援の不思議な世界

高校教師だった私が特別支援学校勤務をきっかけに知ったこと考えたこと

障害者雇用代行ビジネス

 障害者雇用に「法定雇用率」が果たしてきた役割は大きい。「法定雇用率」は、2020年現在、2.2%、企業は45.5人に1人の割合で障害者の雇用が義務付けられている。2021年には2.3%に引き上げられる予定である。「法定雇用率」をクリアしている企業には1人につき2万7000円の調整金が支給される一方、「法定雇用率」に達しない企業からは足りない分1人につき5万円の納付金が徴収される。厚生労働省は、未達成状態が続く企業には警告を発し、それでも改善が見られない場合は企業名を公表している。

 「法定雇用率」よって障害者を雇うことが強制されることは、障害者雇用のシステムや仕事内容の整備が進んでいない企業にとっては負担となり、障害者は「お荷物」となることも多い。そうした中で登場したのが、障害者雇用代行ビジネスである。

 千葉県にある「エスプールプラス」や「ファーマーズマーケット 」はその一例だ。これらの会社は、所有するハウス農園を企業向けに貸し出し、企業が雇用した障害者に農作業をさせている。企業は障害者を雇用し給料を支払っているので「法定雇用率」にカウントされるが、障害者が働く場所はその企業ではなくハウス農園となる。生産された農作物は、福利厚生で社員に配られたり、企業の社員食堂で食材として活用されたりするのだという。障害者雇用代行会社は、障害者の人数に応じて企業から手数料を受け取るという仕組みだ。企業は経済的な負担は増えるが、「法定雇用率」をクリアすることができ、厚生労働省から未達成企業の烙印を押され、社会的な評判を落とさずに済むというわけだ。

 障害者にとっては、就労の機会を得ることができるという点でプラスではあると思う。また、障害者が同じ場所に集まって働けるということは、支援や合理的配慮がしやすいといえるだろう。一方、企業にとっては「法定雇用率」をクリアするためだけの対処であり、障害者が「お荷物」であることに変わりはない。また、障害者の社会参加という観点からも疑問は残る。インクルーシブな社会に向かっているとはいい難い。

 なかなか悩ましい問題である。