特別支援の不思議な世界

高校教師だった私が特別支援学校勤務をきっかけに知ったこと考えたこと

「円盤積み木の棒差し」ができた!

 高等部2年生の男子生徒を担当したときのことである。つまむという動作ができない生徒だった。また、手元をしっかり見て指先で作業をすることが困難な生徒だった。つまむという動作については、テーピングを使った取り組みで何とかできるようになってきた(→こちら→こちらも)。

 《円盤積み木の棒差し》のドリルに取り組んだのは、手元を見て作業をするスキルを育てるためと、親指と人差し指だけでなく、親指と中指、親指と薬指でつまむスキルを育てるためである。親指と中指、親指と薬指でつまむスキルが重要であると気づいたのは、教え子の作業療法士の助言によってである。

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 なかなか難しかった。はじめ、全然できなかった。円盤積み木を縦に持ってしまうのである。この生徒には難しすぎるのだろうか、無理なのだろうかと思った。縦に持ったら水平に持つよう直してあげたが、手元をみないのでなかなか穴が棒にはいらない。たまに入ることもあるが、偶然といってよかった。約1か月進展はなかった。今日もだめかな、と思いつつ時間を決めてやらせた。毎日10分程度である。簡単にあきらめるのは悔しいので、とりあえず続けてだけは見ようと思ったのである。

 ある朝のことである。いつものように円盤積み木を机の上に置くと、きちんと水平に持ち、棒に差したのである。びっくりしたが、たまにはまぐれもあるのだなと思いながら、もう一つ円盤積み木を机に置いた。またできた。まさかと思いながら、もう一つもう一つと積み木を与えたが、次々にできてゆく。きちんと水平に持ち、棒に差していったのだ。昨日まではまったくできなかったのである。箸にも棒にもかからなかったのだ。本当に、突然できたのである。すごい。彼の中でいったい何が起きていたのだろう。

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 ただ問題があった。特定の棒だけに差そうとするのである。棒がいっぱいになっても、その棒に差そうとするのだ。視空間認知の力が弱いのではないかと考えたのは少したってからだ。とりあえず、いっぱいになった棒に差したら(置いたら)、黙って机の上に戻した。ちょっとかわいそうだったが、何度も机の上に戻した。2週間ほどで3本の棒にバランスよく差せるようになった。ほとんど机の上に戻すことはなくなった。できるようになるのと比例するように、手元を見て作業するようになった。驚きである。

 ただし、問題は残る。円盤積み木を水平に持つとき、しっかり目で見て穴の方向を判断して持つのではなく、手の感覚で判断しているように見えることである。しっかり目で見て判断するのでなければ、スキルが一般化し、他のことに応用できるようにはならないだろう。大きな一歩(ジャイアント・ステップス)ではあるが、道のりは遠い。