特別支援の不思議な世界

高校教師だった私が特別支援学校勤務をきっかけに知ったこと考えたこと

ASDの具体的特徴について

 自閉症スペクトラム障害ASD)は、「社会性及びコミュニケーションの障害」と「こだわりの強さ」を特徴とする発達障害であるが、田淵俊彦・NNNドキュメント取材班『発達障害と少年非行』は、東京都自閉症協会の定義を参照しつつ、ASDの特徴について具体的でわかりやすい例を示している。同書によって、まとめて記しておきたい。

1.社会性、コミュニケーションの障害

〇太っている友だちに対して「太っているね」といってしまったり、背が低い人に「背が低いですね」といってしまうなど、相手の気持ちや状況を考えない言動が多い

〇周りの友だちが皆でやっている遊びをやらずに、自分一人で違う遊びを始めたり、無理やり友だちを自分のペースに引き込もうとするなど、一方的でマイペースである

〇相手が困惑し迷惑がっているのに気づかず、自分が関心あることを相手に強要するなど、場の雰囲気が読み取れない

〇皆の前で「〇〇ちゃん大好き」と大声でいって頬にキスしようとするなど、年齢相応の常識が身についていない

〇初対面の人に矢継ぎ早に不躾な質問をしたり、自分に関心のある話題を一方的に話すなど、他者に対する共感性が薄い

〇「今日はどうやって来たの?」などの質問に対して、「朝8:30に家を出て、バス停で市バスの10番に乗りました。」「そのバスはノンステップ型の青いバスで、〇〇駅でそのバスを降りて、そこから○○線の準急に乗りました・・・・。」というふうに、細部にこだわり、情報を取捨選択できない

〇久しぶりにあった人から「最近どう?」と聞かれると、「どうって何のことですか?元気という意味ですか?勉強のことですか?友人関係のことですか?」と細かく聞き返すなど、あいまいな会話が苦手である。比喩や冗談の理解も難しい

〇「今日のご飯は何を食べましたか?」と聞かれて、「米飯と魚肉。それと緑黄色野菜。」と答えたり、「手伝ってほしい」といえば済むところを「援助が必要です」と言ったりするなど、必要以上に難しい大人びた言葉を使う。家族や同級生に対しても、場にそぐわない丁寧語や文章体で話したりする

〇自分の関心があることを、相手が興味あるなしに関係なく、専門用語を使うなど一方的に必要以上にわかりにくい狂言で話す傾向がある。相手が迷惑そうな表情をしていても気づかないことが多い。

〇家に電話がかかってきて「お母さんいますか?」と聞かれたことに対して、「はい、います」と答え、なかなかお母さんに代ろうとしないので、相手が「お母さんを電話に出してください」というと、「お母さんはいますが、今、家にはいません」と答えるなど、言外の意味をくみ取ることが苦手である。「先生に叱られてお母さんは耳が痛かった」といわれて、鎮痛剤をもってきたりする。

〇受け身文で混乱したり、「そこ、ここ」「もらう、あげる」「いく、くる」など視点の違いで異なった言葉を使う表現が苦手である

〇小さな声で独り言をつぶやいたり、考えていることを声に出していうなど、思ったことを口に出す傾向がある。相手の言ったことを小声で繰り返した後に返事をしたりすることもある。

〇よくしゃべり、難しい言葉を使うが、他者の話を理解していないことが多い。自分の関心のあることだけを饒舌にしゃべり、相手と言葉のキャッチボールをすることが苦手である。

2.こだわりの強さ

〇幼い頃、風に揺れる木の葉をベッドから何時間も眺めて笑う。母親が池に石を投げこんでできた波紋を見て、何度も投げるように要求する。踏切で電車を延々と見続ける。特定のビデオの同じ場所を繰り返し見続ける。他の遊びには目もくれず、特定の遊びだけに熱中するなど、興味が偏っている

〇毎朝の通学電車では同じホームの同じ場所から同じ号車に乗ることにきめている。目立たない習慣のようなパターンから始まり、一日の行動パターンを完全に決めたりする。学校生活で時間割の変更や突然先生が休んだりすることに不安を感じたり癇癪をおこしたりする。規則に厳格なあまり遅刻した同級生に延々と注意をしたり、修学旅行で消灯時間をかたくなに守って他の生徒のひんしゅくをかったりする。など、パターン行動が多く、融通や応用が利かない。

〇「ふり遊び」や「ごっこ遊び」など相互的遊びが苦手である。ふり遊びは「自分がもし○○だったら」と想定する想像力が必要であるし、ごっこ遊びは相手に合わせて柔軟にストーリーを変えていく臨機応変さが必要である。柔軟性に乏しく、予想外の事態を嫌うASDの子どもは、これらを避ける傾向がある。

〇テレビのアニメの主人公になりきるなど、「ものまね遊び」が得意だが、反復的でテレビの特定の場面のコピーになっていることが多い。人間関係の複雑さが題材となるテーマを選ぶことはほとんどない。

〇重度になると、体を前後に揺らしたり(ロッキング)、興奮したときにジャンプを繰り返したり、また手をひらひらと目の前にかざすなどの常同行動を繰り返す。

〇電車や飛行機のミニチュア、カードなどのコレクションを好む。トイレのブラシやコンビニのレシートなどをコレクションする人もいる。全国の高層ビルを巡り、エレベーターの製造会社と型番をパソコンにインプットすることに熱中していた例もある。

田淵俊彦 他『発達障害と少年犯罪』新潮新書2018