特別支援の不思議な世界

高校教師だった私が特別支援学校勤務をきっかけに知ったこと考えたこと

映像記憶とサヴァン症候群

 ダスティン・ホフマン主演の映画『レインマン』には、モデルがいるのだそうだ。重度の知的障害の脳障害のあるアメリカ人キム・ピークという人だ。彼は膨大な情報量を瞬時のうちに記憶することができる人で、9000冊余りの書籍を細部にいたるまで暗記していたのだそうだ。失礼な言い方になるが、重度の知的障害がある人が、9000冊の書籍を読んで理解したとは考えられない。

 以前、東京大学薬学部出身のアスペルガー障害の人の講演を聞いたことがある。彼は受験勉強で何かを覚えることについて苦労したことはないといっていた。教科書や単語集などが写真のように画像として頭に記憶されるのだそうだ。自分は写真的な記憶だが、アスペルガー障害の知人の中にはビデオのように動く映像として頭に入る人もいると語っていた。

 「サヴァン症候群」の原因についてはよくわかっていないようだが、自閉症スペクトラム障害ASD)においては情報処理能力が低下し、その代償として局所的な情報処理能力が亢進するとする「中枢コヒーレンス低下仮説」などの説明があるようだ。また、左脳の損傷によって、後天的にサヴァン症候群となった例もあるという。脳機能の低下や欠損・損傷を補うために、部分的に脳機能がパワーアップするということなのだろうか。

岩波明発達障害』文春新書2017