特別支援の不思議な世界

高校教師だった私が特別支援学校勤務をきっかけに知ったこと考えたこと

ADHDの「衝動性」をめぐって

 ADHDは「注意欠陥多動性障害」と訳される。最近では「欠陥」という語がよくないというので、「注意欠如多動性障害」と呼ばれることが多いようだ。「欠陥」も「欠如」もあまり変わらないと思うのだが・・・。

 ADHDはその名の通り、「不注意」と「多動」を主な症状とする障害である。「不注意」には、忘れ物が多いこと、ケアレスミスが多いこと、片付けが苦手なこと、時間を守れないことなどの現象があてはまり、一方「多動」には、落ち着きがないことや、集中力が続かないことなどがあてはまる。

 けれども、ADHDにはもう一つ重要な要素がある。「衝動性」である。感情が高ぶりやすいこと、不用意な発言を抑えられないこと、衝動買いが多いこと、暴力を抑えられないことなどの現象がこれにあたる。この「衝動性」のために、ADHDの人は自分の感情をコントロールできず、依存症に陥りやすいといわれる。男性であれば、アルコール、薬物、ギャンブルなどにのめりこむ頻度が高く、女性の場合は、買い物依存や過食症などに陥りやすい。

 私の考えだが、ADHDを考える場合、この「衝動性」を軸に理解したほうがいいように思う。周囲の環境に対する興味の「衝動」が抑えられないから集中力が続かず「多動」になるのであり、内面的あるいは精神的に「多動」になるから気が散って「不注意」になるのだ。注意欠如多動性障害という言葉には表されてはいないが、「衝動性」こそがこの障害の本質なのではなかろうか。

 一方、この「衝動性」はプラスに働くことも多く、興味をもった特定の対象に対しては、過剰な集中力を発揮することもあるという(過集中)。このため、ADHDの人の中には、学術、文化、経済界などで大きな業績を残す「天才」と呼ばれる人たちも多いという。

 

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